事業会社マーケターのさんぽ道

事業会社のマーケッターがメディアやブランディングについて寄り道散歩。

キャズムから考えるBtoBマーケティングと「事例コンテンツ」の存在意義

キャズム』はITやソフトウェア、インターネットサービスのマーケティングに携わる人の必読書だ。マーケティング担当者はこの書籍を読み逃してはならない。

キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論
 

キャズムの定義

キャズムの定義は「キャズム - @IT情報マネジメント用語事典」が詳しい。ハイテク業界における新製品(このブログでは便宜的に、B2B、B2C向けソフトウェアと定義する)の普及は、ソフトウェアを使うユーザーの対象によって異なり、対象ごとにマーケティングの手法を変えていかなければならないとしている。

イノベーターとアーリーアダプター

キャズムで定義している「イノベーター」「アーリーアダプター」は、主に技術(テクノロジー)に関心を持つ層。新しい製品やサービスが出たらまずは自分で試用し、独自の使い方を編み出していく。サービスよりも技術や先進性に関心があり、新しい技術やサービスが出たらそちらのサービスもどんどん試すといったペルソナが見えてくる。

イノベーターやアーリーアダプターに対するサービスの訴求点としては、開発力がものを言うと感じる。新しい技術を採用し、利便性の良いサービスを提供するための飽くなき開発が、イノベーターとアーリーアダプターにサービスを使ってもらうための最良の手法となる。

アーリーマジョリティとレイトマジョリティ

「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」は、イノベーターおよびアーリーアダプターとは異なる層だと理解できた。これらの層は、自ら積極的に新しい技術やサービスを試さない。製品やサービスが使われ始めていることを確認しながら、自分たちにとってどんな価値があるかを厳しく見極める。得たいものは、安心感や信頼感、利便性なのだと理解している。

アーリーマジョリティ、レイトマジョリティにとって、サービスの導入を判断するのは「事例」だという。イノベーターやアーリーアダプターがそのサービスをどう使ったか、どんな価値を受け取ったかを吟味し、自分たちの仕事や組織でその価値が出せるかを判断する。ここではマーケティングコミュニケーションによる価値の伝達がいっそうの訴求を促すと感じる。

その間に存在するキャズム

イノベーターとアーリーアダプター、アーリーマジョリティとレイトマジョリティの間にはサービスの普及に向けた大きな溝が存在する。これがキャズム(溝)だ。キャズムを乗り越え、異なる層にサービスを使ってもらうようにするには、イノベーターとアーリーアダプターに訴求したサービスの価値を事例化し、その価値をアーリーマジョリティとレイトマジョリティに正しく届けなければならない。

B2Bマーケティングと事例

自分がメディアにいた時に、企業から活用事例のプレスリリースを多く受け取った。今インターネットサービスのマーケティングを担当することになって、多くの事例を作っている。その意義は、製品普及のキャズムを超え、より多くの人にインターネットサービスを使ってもらうための価値を作り出すことにある。

事例を作る際には、使う人そのものやその人の目的意識をまず書き出し、その上でサービスの活用法を聞くようにしている。サービスの紹介に拘泥した事例は、読み物として面白みに欠けると考えているからだ。しかし、この事例の作り方はイノベーターとアーリーアダプターには響くかもしれないが、今後アーリーマジョリティとレイトマジョリティに向けて事例を発信する時には、事例の書き方を工夫しなければならないと感じている。

自分に置き換えて考えてみると、自分自身が何か新しい製品やサービスを購入する時は、「アーリーマジョリティ」としてふるまっている。新しい技術や新サービスが出てもすぐに購入することはなく、ある程度いろんな人が使い、口コミや使い方などが分かった状態で購入を検討する。iPhoneを初めて購入したのは3GSだし、電化製品なども量販店で特価になった時にしか購入しない。キャズムを超えた先にいるアーリーマジョリティの性質は、よく理解できる。

そういう前提を理解した上で今の仕事を振り返る。事例なしにインターネットサービスのマーケティングを考えることはできない。事例記事は、そのサービスがキャズムを超えるためになくてはならないものなのだ。

事例を作ることの意義が見えたとともに、担当しているインターネットサービスがより多くの事例を作っていく段階――キャズムを超える時――に達していることを実感する。