事業会社マーケターのさんぽ道

事業会社のマーケッターがメディアやブランディングについて寄り道散歩。

「くうねるあそぶ。」は至高のコピー。生活者に寄り添う「買い言葉」を使いなさい

売り言葉と買い言葉。コミュニケーションの仕事をしている人なら誰しもが、自分たちが伝えたい言葉と相手に伝わる言葉の間には大きな溝があることに気づいていて、それを埋めるべく「伝わる言葉」を考えることに躍起になる。

伝えられる側からすると、日々大量の情報、すなわち言葉に触れていて、企業からの売り文句なんて到底信じられなくなっている。自分だってそう、「伝わる言葉」に出会えることはまれだ。

では、これらの解離をなくして、伝わる言葉を作り出すにはどうすればいいか。『「売り言葉」と「買い言葉」』からはそのヒントが見えてくる。いつものごとく、読書感想文を記す。

「言葉は伝えるもの」と勘違いしていませんか?

情報を正確に伝えるだけでは、コピーライターの仕事としては不十分なのです。伝えることを通じて、動かす。それが、僕らに求められていることです。つまり、コピーライターとは、言葉で人を動かす仕事とも言える

ところが多くの人は「どう伝えるか」は考えるけれど、「どう動かすか」という発想ではコミュニケーションをはかっていないように感じます。「伝える」という手段が目的になってしまい、本当の目的である「動かす」にまで想いがいたっていないという

よりよく伝わる言葉とは、すなわち相手の心を動かし、行動をうながす言葉のこと。じつはこの点をほんの少し意識するだけでも、見えてくる世界はこれまでとはずいぶん変わってくるはず。

「記事を通じて読者が考え、行動に結びつける、そういった記事を書く必要がある」。私が記事を書く仕事に就いた時に最初に言われた言葉に近いものがある。

とかく言葉を考える際に「伝える側」の視点に立ち、「何をどう伝えたいか」を考えてしまいがちになるが、それでは言葉は伝わらない。「言葉を受け取る側」の気持ちになって、「どういった言葉だったら自分にはすうっと入ってくるのだろう?」と考えることが、結果的に「伝わる言葉」となるのだと感じる。

広告は無視されるものとして考える

ふだんは、うっとうしいと感じることもある。だから僕ら広告制作者は、広告は基本的に見られないもの、無視されるもの、反感すら買うかもしれないものというところから出発します。だからこそ、どうすれば人の目にとまるのか、どうすれば好きになってもらえるか、どうすれば商品を買ってもらえるかということをとことん考えるわけです。

広告だって、情報だって、基本的には無視されるものだと思うこと、その前提を元にクリエイティブや言葉を作ること、ここがコンテンツ企画をする人にとって一番大事なことである。

今、本当にあらゆる人が毎日情報をシャワーのように浴び続けている。また、ソーシャルメディアを通じて「より自分に近い人や知人の書き込み、写真」などを毎日見ている。生半可な言葉では伝わらない。

広告を含む情報、コンテンツの市場は過当競争である。無視されることを前提としたコミュニケーション設計は、言葉を仕事にする人にとっての基本原則である。

生活者の気持ちに寄り添う買い言葉を使いなさい

すべての広告は、商品やサービスを売るためにある。ちょっと身もふたもない言い方ですが、極論を言えば、広告とはそういうものだと思います。

「買い言葉」で数多くの名作コピーをつくり出してきたのは、なんと言っても糸井重里さんだと思います。その中からひとつご紹介します。   くうねるあそぶ。

「くうねるあそぶ。」は、セフィーロに乗る人、つまり買い手の気持ちに寄りそって、商品とは離れた世界で語られています。

「買い言葉」が生まれてくる背景を僕なりに考えてみると、扱う商品やサービスそのものにそれほど大きなインパクトがない、あるいは、ライバルとなる商品やサービスと差別化できる要素が少ないという場合が多いのではないかと思います。セフィーロというクルマも、いまで言う電気自動車やハイブリッドカーのように、ものすごくわかりやすい新技術が使われていませんでした。もしかしたらですが、糸井さんたち広告制作者の方々も、そのことでいったん立ち止まったかもしれません。

自分の気持ちだけをつづったラブレターが響かない紙切れに変わってしまうように、我の思いだけを送ったメッセージがスルーされるように、とかく自分を売り込む言葉は他者にとっての敬遠の材料になりがちだ。

そうした落とし穴にハマらないための所作が、この本の主題である「売り言葉」と「買い言葉」を住み分けて考えることである。要するに、「売り込むな」「響く言葉を使おう」であると思っている。そのためには、その言葉を届ける人の立場になって、寄り添い、気持ちを考え、どういう表現だったら響くかな? と考えないといけない。

糸井重里さんの「くうねるあそぶ。」というコピーは、人間が至高の瞬間になる精神的価値やインサイトを的確に突いたものであり、徹底的に「買い言葉」である。この言葉を聞いた瞬間に、商品を使うことで生まれる価値がぱっと頭のなかを満たしていく。こういった言葉こそが、人に響く言葉なのだと思う。

「買い言葉」を意識するだけで、伝わるコミュニケーションができる

まとめると、あらゆる情報が無視される今、響く言葉は生半可な努力では作れない。生活者の気持ちによりそい、その人が響く「買い言葉」を考えることが、あらゆるコミュニケーションの仕事にとって不可欠だ。それは、コミュニケーションの専門家以外の普通の人にとっても重要なスキルとなる。「伝え方が9割」っていうもんね。うんうん。

伝え方が9割 2

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